2008年05月アーカイブ

2008年05月16日

Dear Keith Jarrett

最近、しとしとと雨が降り続いている。
新緑の季節というのに、
すがすがしい草木の香りも味わえず、
このまま梅雨の季節に
突入してしまうのではないかと、
少し不安になる。

やはり、こういう日々は、
気持ちが憂うつになってくる。

今日は、久しぶりにコンサートに出かける。
キース・ジャレットを聴きに。

彼のピアノもやはり、
この季節のように、
静かに、少し悲しげなのだろうか。
今日は、ゆったりと目を閉じて、
彼のピアノの世界に
陶酔しようと思っていた。

でも、その日の彼は違った。
最初から不安定な、
受け入れにくい音が鳴り響き、
私はじっとしていられない感覚の中、
背中やひざに、ムズムズとした症状が起き始め、
何度も席を立とうとした。

しばらくして、少しずつ
やわらかな音へと変化し始め、
でもまた、不安定なリズムへと戻る。
苦悩と混乱の中で、
やっと探し出す音を、
彼は必死に、嗚咽にも似た
うめき声を出しながら、
弾いていた。
心の叫びを感じた。
彼は、美しいだけの音に疲れ、
静かな安定に不安を覚え、
年老いた自分と闘っているようだった。

時折見せる優しい音の中にさえも、
何か戸惑いに似た空しさを感じ、
彼の音楽に、力強さを、
私は得られずにいた。

昔の彼は、こうではない。

アンコール曲の途中で、
彼は私たちに英語で話しかけた。

「私への信頼に対して、
あなたたちに感謝します。
つまり信頼とは…
そう、これが、ピアノだということです。」

信頼とは、いつもその時の
ありのままの自分の真実の姿を
表現するということ。
私は、彼のメッセージを、
そう解釈し、理解した。
苦悩や混乱を隠さず、
素直に表現する。
人の評価に左右されない生き方。
それが、本当のプロ意識なのかもしれない。

すてきね。
だから、彼は天才なんだ。

本物の真実に出会えた日となった。

キース、あなたは、
私に教えてくれた。

(人はいつまでも、あの頃のように
若くはない。
若いときにできたことが、
無理になる。
でも、年を重ねると、
人は素直になれる。
素直になるんだ。
君もね。)

投稿者 椎名 あつ子 : 18:07 

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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