2009年05月18日

あじフライ定食

夜、定食屋さんでご飯を食べていたら、
テレビから、森光子さんの
放浪記2000回達成までの
ドキュメンタリーが流れてきた。
89歳になった森光子さんを、1年半前から、
彼女の日々の生活をとらえてきたと
いうものだった。

私は、林芙美子の「放浪記」は、
学生のとき読んだが、
とにかく凄まじい、
これでもかというほどの不幸の連続の
人生が書かれていた記憶がある。
林芙美子自身の半生を、
自分で書いた本で、
仕事もなく、貧しい生活の中で、
何度も、信じていた男性に
裏切られ続けるといった、
過酷な生き様を演じるストレスを考えると、
2000回継続し続け、
まだこれからも女優として
演じ続けようとしている森光子さんの
自分の人生をかけた信念には、
圧倒された。

ドキュメンタリーでは、
林芙美子と森光子さんの人生を、
2人の放浪人生として重ねていた。

定食屋さんの閉店の時間になっても、
番組が終わらなかったため、
グラスワインを追加して、

「もう少し居させてもらえますか?」

と、お願いした。

「一緒に見ましょうよ」

おじさんとおばさんは、
ニコニコしながら、
私に、グラスにいっぱいごぼれそうなほど、
ワインを注いでくれた。

定食屋のおばさんは、テレビを見ながら、
森光子さんはすごいとか、
やはり年齢は隠せないとか、
ぶつぶつと話していた。
その中で、

「森光子は、この芝居に
一生をかけたかもしれないけど、
私だって、この小さな店を
支えるためだけに生きてきているんだからさぁ。
私の放浪記は、この店よ。
ねぇ、お父さん。」

と、あっけらかんと話していたことが、
印象的だった。

確かに、誰だって、
それぞれの人生があって、
それは華やかではないし、
人に尊敬されるほどでもないけれど、
地道に生きている。

番組が終わって帰るとき、

「このお店で、この番組が見れて、
よかったと思います。
ありがとうございました」

と声をかけて帰ってきた。

森光子さんのドキュメンタリーは、
いつのまにか、私の中で、
定食屋さんの夫婦の
ドキュメンタリーの方が
大きくなっていっていった。
私には、この2人の人生の方が感動だし、
身近でほっとできると感じた。

あじフライ定食と放浪記。

何ともミスマッチながらも
感動した夜だった。

投稿者 椎名 あつ子 : 16:32

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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