2009年12月03日

ジュリエット・グレコ

彼女に再び会うために、
黒のドレープシャツを着た。
昔、社会人になった頃、
一度、両親と観にいった
あの美しい女性。
フランスのシャンソン歌手、
ジュリエット・グレコ。

彼女はいつも舞台で、
長い黒のドレスを着る。
82歳になる彼女は、
今日も、少し腰の曲がった体に、
黒の長いドレスをまとい、
登場した。
彼女のドレスは、
写真でも、CDジャケットでも、
喪服のように見える。
悲しみの象徴のようだと思った。

レジスタンスの闘士だった母が
逮捕された後、
姉とグレコは、刑務所に入れられ、
のちに釈放された後、
演劇の勉強を始める。
彼女は、パリのサン・ジェルマン・デプレで
サルトル派にかかわり、
実存主義をとなえ、
歌を歌い始めた。
そういった過去の影響も大きいのか、
グレコの声は深く、
ひそむ影に向かって叫ぶように、
太い声の中に
凛とした声が含まれていて、
心や体の中から
熱くなるものを感じる
体の芯から涙が出てくるような
感覚におちいる。

広い舞台の中心に、
ライトが彼女だけを照らし、
黒のドレスの小さな体の
グレコだけが立ち続け、
歌い続けた。
彼女は、休むこともせず、
1時間40分、20曲を、
すべて歌い続けた。

82歳。
このエネルギーは、
私たちにも十分にそそがれた。

「行かないで」では、
両手を広げ、
1本1本の指が小刻みに震える中、
彼女はまっすぐ、
前をじっと見つめていた。
一人芝居を観ているかのようで、
彼女のフランス語は、
私たちと同じ心の
ことばとなっていた。

本当の愛を知っているから歌える
彼女の激しくも苦しい愛の歌を、
私は、聞き続ける中で、
愛とは何か、
再び、これからも、
考えていこうと思った。

グレコのコンサートが終わったあと、
みなとみらいのクリスマスツリーが、
今年初めて、点灯した。
愛の光が、
輝いているように見えた。

投稿者 椎名 あつ子 : 13:44

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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