2024年12月09日
むくどりの夢
最近、むくどりの大群被害によって住民が困惑しているというニュースをみて
なんともいえない気持ちになりました。
むくどりは、私にとって懐かしく、温かな大切な思い出の鳥だったのです。
小学生の時、母が買ってくれた絵本で今でも覚えているのが
「むくどりの夢」という大きめの本でした。
むくどりと聞くと今でも切なくも温かな気持ちになることを
思い出して、探して新しく取り寄せました。
昔読んだ本とは、絵が違っているように感じましたが
お話しの内容は同じで、あの頃の事を思い出すきっかけとなりました。
広い野原の真ん中に古い栗の木がありました。
お父さん鳥とむくどりの子は栗の木の穴の中で一緒に暮らしていました。
秋もくれてススキの穂が白くなるとお父さん鳥はその穂をくわえて巣の中に持ってきてくれました。
穂はとても温かくて
お父さん鳥とからだをすり寄せて一緒に寝ることが楽しみでした。
けれども、天気の悪い日が来て、外に出れない日が続いて
ふと、お母さん鳥のことを思い出しました。
お母さん鳥はこの世にはいなくなっていました。
けれどもむくどりの子はそうとは知らずに
お父さん鳥が「遠いところにでかけていった」と教えてくれていたので
いつかお母さんは帰ってくると思っていました。
ある日むくどりの子が聞きます。
「お父さん、お母さんはまだ帰ってこないの」
お父さん鳥は静かにいいます。
「もう少し待っておいで」
「今頃は海の上を飛んでいるの」
「ああ、そうだよ」
それから月日が経って
ある夜中にカサコソ、カサコソと羽の擦れ合うような音がして
むくどりの子はいいました。
「おとうさん、おかあさんがかえってきたよ」
お父さん鳥はびっくりして目を開けますが
すぐに気がついて
「いやいや違うよ。風の音だよ」といって目を閉じます。
それでもなかなか眠れないむくどりの子は巣を抜け出して入り口まで出てみると
一枚の枯れ葉が風に吹かれて音を立てていたのでした。
むくどりの子はどうしてもその音がお母さんの羽のように感じて
お母さんのささやく優しい声のように思うのでした。
次の日、むくどりの子はその一枚の枯れ葉が風で飛ばされないように
巣の中にあった長い馬の尾の毛をくわえて
枯れ葉を枝にしっかりとくくりつけました。
その様子をお父さん鳥は見つめていました。
その夜、むくどりの子は夢を見ます。
身体が白い1羽の鳥が飛んできました。
「おかあさん」と呼ぶけれど
その白い鳥は何も言わずにむくどりの子を優しく見つめていました。
次の日のあさ、
一枚の枯れ葉の上に薄い雪が粉のようにかかっていました。
それを見てむくどりの子は
昨日の夢は、この白い葉であったのかもしれないと
自分の羽で叩いて葉の雪を払い落としてあげました。
お話しはここで終わりとなっています。
親が子どもを想う気持ちと子どもが親を感じる気持ちが描かれていて
切なくて、やさしい、ものがたりでした。
お父さんから教えられた
おかあさんは遠くに出かけているのだという言葉が
いつの日か
それは子どもを悲しませないように
子どもを守るためについた優しい嘘であったと
子どもが気付く日まで
一緒に包み込んでくらす
それは、親として、
子どもが親離れする日までの現実の日々であるように感じました。
最近は、子どもにより早い内に現実を伝えることも多くなっていますが
この絵本を読み返して
子どもの心に今しばらく寄り添いながら
真実を伝えない時間も
もしかしたら
必要な時もあるのかも知れないとおもったのでした。
それが優しい思いやりのある子に育てる
方法である場合もあるのかも知れないと
むくどりの子は、いつの間にか
雪のかかった白い枯れ葉がお母さんではないことを
知りながらも
自分の羽で雪をはらってあげるという
思いやりの心をもった子に成長したのですから
「むくどりの夢」(浜田廣介著)
私のそばに置いておきたい絵本となりました。
2024年11月07日
穏やかな豊かさ
11月になりました。
先日の連休では韓国に旅行に行ってきて楽しい時間でしたが
あっという間に
秋が深まり
冬が近づいていることを感じるようになってきました。
季節の変わり目はあっという間で
気持ちがなかなかついて行けないでいますが、
街ではクリスマスの飾り付けが少しずつ観られるようになりました。
今年も、もう少しなんだなと
焦りに近い気持ちを考えないようにしながら
いつものように過ごすことを心がけようと思っていたのですが、
今日は朝から
どこのTVでも「トランプ大勝利」のことで持ちきりで
これからの日本の影響について
たくさんのコメンテーターが様々なことを話していました。
「アメリカファースト」の考え方が
私たちの国にどんな問題をもたらすのか・・・
話を聞けば聞くほど
心はざわざわしてきて
安心感や穏やかな状況とは程遠く
これからどうなっていくのだろうという
不安や恐怖さえ感じてきます。
世界はそして日本はどこに向かおうとしているのか。
どこに向かいたいと思っているのか。
いろいろ学ばなくてはいけないこともたくさんあるけれど
今の私がしなくてはいけないことは
これからの冬物の支度や
暖房に向けてのエアコンの掃除や
クローゼットの中の整理や
日々の当たり前のメールの返信や
月締めの経理や
与えられている仕事をこなすこと
そんな小さな日常が当たり前にあります。
それは実は
とても幸せなことなのかも知れないと思ったりしました。
これからどうなっていくかは
誰も何も予想ができないことばかりの中で
毎日変わらない気持ちで
過ごしていくことが
もしかしたら穏やかな豊かさなのかもしれないと
そんなことを思いながら
今日を過ごしています。
2024年10月16日
離れないもの
「僕は、許せない自分を許すことにしたんです」
その人は
穏やかに静かに哀しそうな目をしながら
つぶやきました。
でもその言葉はずっしりとしていて
はっきりと私に響いていました。
大切な人
守りたい人
かわいい人
そして
愛していた人へ
粉々に壊れた心は元には戻らずに
それでも
確かな月日をつなげていく
明日があるから
ふと、
遠い昔読んだ詩をおもいだしました。
<離れないもの>
「もつれた髪は
ほどけても
もつれた言葉は
ほどけません
からんだ指は
忘れても
からんだ心は
忘れません
ゆるんだ夢は
捨てられても
ゆるんだ絆は
捨てられない」
田辺千恵子
それは真夜中の月の光のように
遠い遠い宇宙の果てから
美しくやわらかに
輝く光
許せない自分を許すこと
それは真実の答え
私はこの人の言葉に
何か救われた気がしました。
過去の傷は深すぎて
過去は過去であっても
その人にとっては
まだまだ癒えないままで
赤く開いた傷口は
今でも時々血がにじんでいる
それでも
その人と過ごした時間や思い出は
傷口の痛みよりも
尊い絆だから
だけど
自分の心が泣いていることは
確かな事実
だから自分を許してあげたい
許せない自分を許してあげる
そんな夫婦の形もありました。
そこには
美しすぎて切ないドラマがあります。
そして
まだまだドラマは続きます。
これがここでの
日常のできごとでもあります。
許すことは永遠のテーマなのかもしれません。
2024年10月04日
長月(ながつき)
京都に出かけてきました。
いつも必ず行く日本料理・懐石屋さんの
今月の献立のお題は
「長月」お月見
長月は旧暦の9月のことらしく
「夜が長くなる月」という意味から来ているそうです。
京都ならではの繊細な食材と
店主の心の在り方が
追求し探求し
料理を通して貢献するという
人間の高みを感じさせる作品でもあり
ここは私の心の居場所の一つでもあります。
そして
また、もう一つ心の居場所が京都にはあります。
そこは、先斗町にあるバーで
9月末まで鴨川を見下ろせる川床があり
地元の人にも観光客にも愛されているお店です。
今回は、そのお店の店長さんが9月末にお辞めになることを知り
お別れのご挨拶をどうしてもしたくて
京都に出向きました。
店長さんとは10年ほど前からの知り合いで
年二回の京都旅行の度に必ず立ち寄っていました。
今年、3月に行ったときに
店長さんから
「9月末で卒業します」
と聞いていたので
今回はその日に合わせて行ってきました。
彼は、私の為にいつものカウンターの席を用意して下さっていました。
今後は、ご実家のある地元でお店を開く予定であることを知り
その新しい場所でまた会いましょうと
初めてお互いの連絡先を教え合ったりしました。
今まで、プライベートの事などはいっさい話したことがなく
ただ、年に二回ほど横浜から京都に遊びに来る客がいるという
それだけの関係でした。
それでも、
京都に行くことを一応連絡すると
必ずといっていいほどいつもの
その席を用意して待っていてくださっていました。
食事の後にバーに立ち寄ってホテルに帰る
そんなささやかな時間でも
10年も続き
それはいつしか大切な場所で大切な人となっていました。
それなのに
今年の川床の時期が最後という日に
そのつながりが、これで終わりという日となりました。
それも考えてみれば
人生の中では
当たり前の流れでもあるのに
とてもとても寂しくて
その日は鴨川の景色や匂いや風が
まさに秋の切なさと一緒になりました。
別れは必ず訪れる事など
この年になると何度も経験していますが
それでも、
かっこいい別れ上手な大人にはなれずに
きっといつか地元のお店で会えて
私の居場所がひとつ増えるのかも知れないと
儚い夢と希望かも知れないと感じながらも
約束をしたのでした。
「また、会いましょうね。新しいお店で」
そんな
約束があってもいいと
そんなつながりを信じてもいいと
今も私は感じています。
その日は本当に「長月」の夜となりました。
秋は、私に切なさと寂しさと美しすぎる月の光のような
思い出をあたえてくれました。
長い間ありがとうございました。
Tさん、又ね。
2024年09月17日
卒業の日
その子とは彼女が13歳の時に初めて会いました。
母親と一緒に来た少女は
少し大人っぽくて
長い髪の毛でかわいい子でした。
ただ、たくさんの悩みを抱えていました。
不安感、緊張感、頭痛、吐き気、眠れない、
落ち込む、憂鬱、食欲がない、学校が辛い、
言われたことができない、
計画通りにできない、いわれても忘れやすい、
片付けができなくて注意される、
自信がない、人の言葉が気になってしまう、
生きていることが苦しい、
いなくなりたい・・・
小さい時から、何故か他の子と違っているといわれてきて
中学で不登校になりました。
学校では居場所がなく、友達にも、先生にも理解されることなく
気づくと、教室に入ることができなくなっていました。
最初は、ご両親からも不登校について甘えていると思われていました。
「みんな辛いことがあっても頑張って学校には行っているんだよ」
どの親もきっとそれは当たり前にいうことだと分かりながらも、
少女は心の苦しみから逃れるために
手首を切りはじめて
身体の痛みの方がラクだと感じるようになりました。
学校に行かなくなって長い時間が過ぎていきました。
小児精神科に通うようになって
次第に薬が増えていきました。
薬を飲んでも、学校を休んでも、
少女の心と、身体の症状は変わることなく
時にはひどくなっていきました。
カウンセリングも多いときは月に3回通ってきていました。
父と、母のこと、
母とおばあちゃんとのこと、
両親が居ないときの時間のこと、
小学生の時の友達との問題、
先生から言われた言葉、
中学になって部活でのこと、
好きなアニメのこと、
中学での友達とのこと、
学校を休むこと、
学校とは何かということ、
人を好きになるということ、
自分の将来のこと、
人に裏切られたこと、
SNSの世界のこと、
セックスのこと、
男の子のこと、
付き合うということ、
生きるということ、
死んでしまうということ、
夢のこと、
たくさんのことを
たくさん話しました。
そしてたくさん涙を流しました。
あれから4年が経ちました。
高校生になって
次の進路が決まりはじめました。
薬が全てなくなり
落ち込むこともなくなり
私と話さなくてはならない悩み事が少なくなってきました。
幼い少女は美しく、優しいおだやかな女の子になりました。
彼女の本来の生命力が力強く大きくなっていました。
真っ黒な長い髪の毛が輝いて見えました。
真っ直ぐに私をみつめる目に光が見えました。
「今日で卒業にしましょう」
この日が来るまでの長い道のりと
おびただしい彼女の叫びの言葉と涙
私は、忘れないでしょう。
彼女が勝ち取った人生の重みと
失ってしまった青春が在るから
これからの新しい時代が訪れていく
そんな経験をいつか誰かのために
教えてあげることが
彼女にはできていく。
それが、卒業の日。
一緒に涙を流し合うことができて
そして
この素晴らしい瞬間を見せてくれて
心から
心から
ありがとうございました。
私は、いつかまた
貴女を思い出すことでしょう。
そして、それは
美しい別れの日になりました。
謝
プロフィール
2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。
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