2008年03月12日

ドラマ

いくつものドラマがあった。

仕事を終えた後、
行きつけのレストランバーで、
顔見知りの夫婦にあった。
御主人は、エレガントな
イギリス紳士を感じさせる、
スタイリッシュな雰囲気な方。
奥さんは、ふくよかで、
人懐っこい優しさをかもし出している。
私にとって、人生の先輩ママ的な感じ。

イギリス紳士風の夫は、
私たちみんなの前で、堂々と言う。

「35年、夫婦やってるけど、
あいつを今でも愛している。
オレは幸せだよ。」

奥さんは、あっさりと言う。

「あっそうぉ。ありがとう。」

もうひとつ隣のテーブルでは、
先日、内縁の妻を突然
病気で失った男性がいた。
悲しみを消すために、
ジャックダニエルを
ひたすら静かに飲む。
もう一人の男性の奥さんは、
最近、末期のがんの宣告を受けた。
彼は、悲しみと絶望を感じているはずなのに、
それをおくびにも出さないで、
やはり静かに、ひたすらお酒を飲む。

両テーブルの間にいる私は、
そんな、それぞれの人たちの
運命を感じながら、
私の夕食でもあるBLTをほおばる。

今日は、仕事で様々な人生を
見て、聞いてきた私は、
その両テーブルの
それぞれの人生のドラマを
見過ごそうとしていた自分が
怖くなった。

私は仕事を離れ、一個人の客として
ここに来ている中で、
その空間のドラマは、
あくまでもドラマ化したかった。
感じないようにしていた。
むしろ、もう今日は感じたくなかった。
私の今日一日の仕事を
引きずらないために。
だから、ここでも引きずらない。

そんな風に思うように努める私は、
いつから変わってきてしまったのだろう。
そんな自分が恐ろしくなりながら、
自宅に戻った。

しばらくして、突然、
吐き気をもよおした。
トイレで、ドロドロした物を
吐き始めた。
次から次へとくる嘔吐感は、
きっと自分への怒りだったのだろうと、
後で気付く。
もしかして、私はまだ少しは、
繊細なのだろうかと、
吐いた自分が、少し好きになれた。

どんなに感じないようにしていても、
人の苦しみはやはり辛く、切ない。
私は、押し殺して普通にしていた自分に
嫌悪し、辛くなり、吐いた。
その後、少し楽になった。

それでも私は、自分を守り、
コントロールする。
それは、明日のために。
それが、私。
それが、私の大切な宿命。

投稿者 椎名 あつ子 : 14:54

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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