2024年09月17日

卒業の日

その子とは彼女が13歳の時に初めて会いました。

母親と一緒に来た少女は
少し大人っぽくて
長い髪の毛でかわいい子でした。

ただ、たくさんの悩みを抱えていました。

不安感、緊張感、頭痛、吐き気、眠れない、
落ち込む、憂鬱、食欲がない、学校が辛い、
言われたことができない、
計画通りにできない、いわれても忘れやすい、
片付けができなくて注意される、
自信がない、人の言葉が気になってしまう、
生きていることが苦しい、
いなくなりたい・・・

小さい時から、何故か他の子と違っているといわれてきて
中学で不登校になりました。
学校では居場所がなく、友達にも、先生にも理解されることなく
気づくと、教室に入ることができなくなっていました。

最初は、ご両親からも不登校について甘えていると思われていました。
「みんな辛いことがあっても頑張って学校には行っているんだよ」

どの親もきっとそれは当たり前にいうことだと分かりながらも、
少女は心の苦しみから逃れるために
手首を切りはじめて
身体の痛みの方がラクだと感じるようになりました。

学校に行かなくなって長い時間が過ぎていきました。
小児精神科に通うようになって
次第に薬が増えていきました。
薬を飲んでも、学校を休んでも、
少女の心と、身体の症状は変わることなく
時にはひどくなっていきました。
カウンセリングも多いときは月に3回通ってきていました。

父と、母のこと、
母とおばあちゃんとのこと、
両親が居ないときの時間のこと、
小学生の時の友達との問題、
先生から言われた言葉、
中学になって部活でのこと、
好きなアニメのこと、
中学での友達とのこと、
学校を休むこと、
学校とは何かということ、
人を好きになるということ、
自分の将来のこと、
人に裏切られたこと、
SNSの世界のこと、
セックスのこと、
男の子のこと、
付き合うということ、
生きるということ、
死んでしまうということ、
夢のこと、

たくさんのことを
たくさん話しました。
そしてたくさん涙を流しました。

あれから4年が経ちました。

高校生になって
次の進路が決まりはじめました。

薬が全てなくなり
落ち込むこともなくなり
私と話さなくてはならない悩み事が少なくなってきました。

幼い少女は美しく、優しいおだやかな女の子になりました。

彼女の本来の生命力が力強く大きくなっていました。
真っ黒な長い髪の毛が輝いて見えました。
真っ直ぐに私をみつめる目に光が見えました。

「今日で卒業にしましょう」

この日が来るまでの長い道のりと
おびただしい彼女の叫びの言葉と涙
私は、忘れないでしょう。

彼女が勝ち取った人生の重みと
失ってしまった青春が在るから
これからの新しい時代が訪れていく
そんな経験をいつか誰かのために
教えてあげることが
彼女にはできていく。

それが、卒業の日。

一緒に涙を流し合うことができて
そして
この素晴らしい瞬間を見せてくれて
心から
心から
ありがとうございました。

私は、いつかまた
貴女を思い出すことでしょう。

そして、それは
美しい別れの日になりました。

投稿者 椎名 あつ子 : 16:20

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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