2014年05月31日

大地

思い出したくもない

過去の出来事がある。

 

その事を思い出すと、

胸の奥深いところにある細胞が

ひとつひとつ押しつぶされるような

痛みを感じ、

息をすることができなくなる。

悲しみということばでは

表現できないような喪失感と共に、

時々、どこからともなく津波のような、

大きな怒りも一緒に押し寄せ、

私は、自分が違う生き物になって

しまったかのように思える。

 

そしてしばらくすると、

この世でいちばん醜い、

カフカの「変身」の虫のような物に

させられてしまったかのような

絶望がやってくる。

 

こういった感情は、

遠い過去であっても時々やってきて、

夢の中で叫び続ける自分を

もうひとりの自分が

上の方から見つめていたりする。

 

カウンセラーである私は、

人からは、どうも、そういった感情を

うまく乗り越えて解消して

生きているように思われているようだけれど、

カウンセラーもやはりひとりの人間で、

自己分析や、切り替え方や、

ストレスを減らすことについて、

方法を知ってはいるが、

どうしようもなく感じてしまう心は、

やはり、あるものだと思う。

 

神様は、平等に誰にでも、

心を与えているから。

 

それでも、そろそろこの苦しい感覚を、

せめて夢の中から追い出したいと

思うようになった。

私は、もしも脳の記憶の部分の量が

決まっているのであれば、

これからもっといい記憶を残したいので、

古い苦しく絶望に近い記憶は 捨ててしまいたい。

少なくても、

小さなあずきぐらいにしたいと思う。

 

そんなことを考えているとき、

ふと思いついたことがある。

 

「そうだ、土に返そう」

 

忘れようとか、消そうとか、

捨てようとしないで、

土の中に埋めるイメージを持とう。

あの時の悲しみや絶望や、怒りや、

それらを静かに

深く深く穴を掘って土の中に埋めてみよう。

それらの感情はいつかいい肥やしになり、

雨を受け入れ、太陽の光をたくさん浴びて、

しっとりと、でもさらさらの土となり、

いつか丈夫な芽を生み出すことだろう。

 

私は、過去のつらい感情に

「大地」という名前をつけることにした。

「大地」は、果てしない

自然のエネルギーを私に伝え、

この地にしっかりと足をつけて

生きていく意味を、

教えてくれることだろう。

 

私は大地の上にしっかりとまっすぐに

立って生きたいと心から願っている。

 

 

 

 

投稿者 椎名 あつ子 : 18:36

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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