2008年10月アーカイブ

2008年10月03日

柿の木

何ヶ月ぶりかに、実家に顔を出した。
40年程にもなるその家は、
父がこまめに修理し続けて
大切にしてきたが、
もう、あちこちが少しずつ
傷みはじめている。

時々帰ることはあっても、
庭をしみじみ見たのは、
何年ぶりだっただろうか。
庭の端に植えられていたはずの
細かった柿の木が、
大きく大きく育っていた。
50個以上と思われる
薄いオレンジの柿が、
たくさんなっていた。

毎年、母から、
「うちのお庭の柿だから
持って行ってね。」
と、よくもらって帰ってはいた。
その柿は、スーパーで買うのとは違って、
とりたての柿はカリっとしていて、
そして本当に甘い。
でも、食べることはあっても、
柿の木をゆっくりとながめることも、
ましてや柿をとることも、
一度もしたことはなかった。

「たまには、庭でも
ながめて行かないか。」

そんな、父親の言葉にうながされて
庭に出てみて、
何故かじーんときた。

年老いた父は、
まだこの柿をとり続け、
そして、隣りに植えられている梅の木から
毎年、梅干や梅酒を作り続けていたことに、
今さら気付かされた。
守り続けてきたんだ。
守り続けることは、
育て続けることなんだ。

そんな当たり前のことに気付かず、
私は、長い長い間、
夏には冷えた梅酒を飲み、
秋には柿を食べていた。

家は、大切にされて守られて、
はじめて意味を持つのかもしれない。

マンションに住み慣れた私は、
機能性と合理性を求め、
実家の庭の木々のことなど考えもせず、
かえって面倒くさいものとしか
見ていなかった。

庭の木々は、本当に生きていた。
そして、知らぬ間に、
とても大きく成長していた。

父は、こういうことを
私に伝えたかったのかもしれない。

守り続けるということ。
きっとそれは、生きていく上で、
すべてに通じることなのかもしれない。

今年の秋は、心から味わって
柿を食べよう。
きっとまた、甘くてカリっとした
変わらない味のはずだから。

投稿者 椎名 あつ子 : 13:50 

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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