2012年02月アーカイブ
2012年02月29日
雪の日
初春、雪が降り続けた。
冷たい風に吹かれ、
雪は大空に向かって舞っていた。
それはまるで、
おびただしい、たくさんの事を、
美しい白い粉雪は浄化しているようで、
強く、はげしく、洗い流し、
そして落ちてゆく。
春を受け入れるため、
これからのあたたかい風を
むかえるため、
いろんな事を洗い流す。
雪はすべてを知っている。
汚れてしまった悲しみも、
黒いかたまりの恐れも、
ひざを抱えこむような淋しさも、
ズンズンときこえてくる不安も、
すべてすべて
きれに浄化してくれている。
その状況を、静かにだまって
見守ってゆこう。
凍えるのではなく、胸を張って、
受け入れていこう。
やさしい春は、
もうすぐ訪れるから。
大丈夫だから。
あと少し、待ってみよう。
雪はちゃんと見ているから。
みんな、みんな、
一人じゃない。
雪をいろんなことを教えてくれた。
素敵な水曜日。
2012年02月14日
親離れ子離れ
4月から、上の娘が新入社員として働き始める。
配属先はまだ分かっていない。
2月下旬頃からの決定となり、
そこから引越しなど、
新しい環境への支度が始まる。
今年に入ってから、
初めてのひとり暮らしの練習として、
料理を教え始めた。
仕事から帰ってきて、簡単に作れる料理を中心に、
メニューを決め、週2~3品のペースで
こなしている。
それぞれの料理に合わせた野菜の切り方、
味付けの感覚など、
料理本を見なくても、
何となくあるもので作れる状況にまで
進めていくことは、
思った以上に、教える側も大変な作業であり、
教わる娘の方もぐったりしてくる。
ただ、作り上げた料理を、
「上手、上手、美味しいよ。大丈夫!」
とほめていくうちに、彼女は、
「お料理って大変だけど、楽しいね」
と、余裕が少し出てきたのか、言っていた。
私は、料理作りが義務感としてではなく、
食の文化としてや、人が生きていくための基本としての
大切さを教えていきたいと思っているし、
また、何よりも料理は、集中力、想像力、
そして人への思いやりの気持ちを
学ぶことにもなると思う。
今まで、ここについては、私自身、日頃、
娘たちに教えてきたつもりではあったが、
いざ、娘が独立するとなると、
何と数多くのことを教えずにきてしまったのか、
母親として、一体今まで何をしてきたのか、
最近、反省の連続だ。
人との接し方は大丈夫だろうか。
仕事をしていく上での礼儀や、
上の人に対する言葉づかいは大丈夫だろうか。
ストレスの切り替えや、また、
上司に怒られたとき、この子は耐えられるか、
前向きに謙虚に受け止められるか、
考え出すときりがない。
娘が親離れをしようとしているのに、
どうも私は、子離れさえもできていない気がしている。
自分が引っ越すのではないのに、
私が焦り始めているという、
何とも親として未熟な状況を感じている。
そんな中、料理を作りながら、
娘がポツリと言った。
「年末の旅行、楽しかったね。
…何か淋しいな。」
私は涙が出そうになり、
娘を抱きしめたくなる気持ちを抑えた。
「大丈夫よ。いつでも会えるから。」
これが、精一杯の言葉だった。
これからが、親離れ子離れの、
本当の意味での始まりとなる。
春は、本当にもうじきやってくる。
2012年02月04日
節分
それは、節分の日だった。
昔でいう大晦日の日で、
明日が新しい年の始まりというその日、
豆まきをし、恵方巻を食べ、
昔の年末を静かに味わっていた。
シャワーを浴びて、リラックスしながら、
ワインを飲んでいたら、
ふと一冊の本が気になり、手に取った。
それは、何気なくもあり、
ただ、後から思うと、
必然でもあったのかもしれない。
その本は、中原中也の詩集だった。
中原中也詩集は、
私が中学か高校の頃、読んだ本で、
彼は、明治40年に生まれ、
30歳で亡くなった。
悲しく、切なく、繊細で、
純粋すぎる詩人で、
昔から気になる詩人の一人でもあった。
そして、その日、手に取ったその本は、
私の母方の祖父の遺品だった。
祖父は、詩集の表紙に、
中原中也のモノクロの写真を貼っていた。
私は、祖父が亡くなってから何年か後、
そっと祖父の本箱から持って帰ってきていた。
昨年は、祖父の7回忌の法事もあり、
画家でもあった祖父は、私にとって、
とても大切な人だった。
その詩集は、私の本箱に住み続け、
何年か経ち、今日、節分の日、
祖父を感じ、想いながら、読んだ。
それも偶然であり、
そして、必然だったのかもしれない。
中原中也の詩の中では、数多く、
自分の長男、文也の死の悲しみ、絶望を表現していた。
29歳で長男を失い、30歳で中原中也は、
長男の死のショックにより、精神の変調を感じ、
その年、結核性脳腫瘍を発病し亡くなってしまう。
また、祖父は、私の母を長女に
3人の娘のあと、長男を授かるが、
1歳にもならないで、栄養失調のため、
長男は亡くなってしまったと、母から聞いてはいた。
当時、お金もなく、ダンボールに入れて
お寺の中の土の中に埋め、
そばに咲いていたつばきの花を添えたと
聞いていた。
何故、祖父が死ぬまで
中原中也の詩集を大切にしていたか、
今日、初めて知った。
祖父は、中原中也と同じ悲しみを、
詩を通して共感しあい、
なぐさめあい、過ごしてきたということ。
長男が亡くなってから、ずっと、
自分が死ぬまでの間、
誰にも気付かれず、この詩集の中でだけ、
祖父は、長男を想い続けていたのだということ。
その思いを、孫である私に
託してくれたのかもしれないと、
おそろしいまでに感じた。
この深い祖父の思いは、今日、この日に、
やっと私を通して知らされることとなった。
私は、夜中になっていたが、母に電話をした。
「おじいちゃんの気持ち、
きっと、誰も知らなかったと思うけど、
私、分かったよ。
中原中也を、どうしてずっと読んでいたか、
分かったよ。」
母は、私の説明を聞いて、話し出した。
母は、私の弟でもある長男が、
1週間で死んでしまった時、
母に向かって祖父が、
「私と同じ気持ちだね。」
と、静かに言ったことを想い出していた。
母は、泣いていた。
母自身、祖父が息子(母の弟)を亡くした悲しみを、
そんなにも長く引きずり、想っていたことは、
知らなかったという事実を知った。
祖父は、自分が亡くなった後、
中原中也の詩集を私に託し、
私に気持ちを伝え、
そして、私から自分の娘でもある母へ、
メッセージを与えたことになった。
歴史はつながっていく。
きっと先祖は、私たちを見守り、
私たちは、それによって生きている。
それが宿命でもあり、
必然なことであるのかもしれない。
そんなスピリチュアルなことを感じた、
感じずにはいられない日、
それが、節分だった。
中原中也と祖父は、私の中で、
はじめてひとつの形となっていった。
プロフィール
2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。
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