2008年02月11日

舞台

50をとっくに過ぎたある男性の
一人舞台を観に行った。

汚れた白い着物、
黒いブーツと、
もうひとつの足には、
赤いハイヒール。
白塗りの化粧、
黒い羽のマフラー、
牢獄のような空間、
そして炎、
首吊りのロープ、
バカにしたような笑い、
枯れたバラの花。

訳のわからない踊りのようで、
何かがあった。
少なくとも私は、
そう感じた。

舞台が終わって、
彼らと少し飲んだ。
彼が、少し薄笑いを浮かべて、

「お嬢さん、感想は?」

皮肉のような、
純粋に聞いているような
顔つきでの質問に対して、
話し始めた。

「私は、心の病んでいる人を診る
カウンセラーという仕事をしています。
今回、死のうと決断した人の、
嘆きと苦しみと矛盾と切なさの中で、
死んだ後の、その人の
解放の魂を感じました。
でも私は、日々、こういう人たちを、
生かすために闘っています。
解放と責任という2つの中で、
私は分からなくなりました。
それが感想です。」

彼は言った。

「僕は今まで、死のうとしたことは
一度もない。
でも昨年、恋人が去っていったあと、
排便をしていて、
そのとき初めて、死にたいと思った。
人が死のうと思う瞬間は、
クソミソ、全部一緒のようなときさ。」

じっとじっと、私の瞳の中を
厳しく食い入るように見つめたあと、
ふっと力が抜けて、
優しい顔になった。

「観てくれてありがとう。
今夜は楽しもう!」

人は、彼のことを、
いかれていると言うだろう。
変な奴と言うだろう。
だからこそ、彼は、
数少ない認めてくれる人たちのために
踊る。
今日は、6人の観客のために。

今日、私は、
私を大切にしてくれている
仲間3人と観た。
生きることは、
そんなに楽ではないということを
教えられた。
少し重い。
そして、少し吐き気を感じた。

鋭い感覚の中に浸った
夜だった。

投稿者 椎名 あつ子 : 15:32

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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