2013年05月09日

私の母へ

父の検査入院の日だった。
昨年の心臓の手術した後の様子を
みるための入院ということだった。

私は家で一人で不安になるだろう母を想い、
電話をして、
実家に戻るから夜ごはんを一緒に食べよう
と伝えた。

「あら、気にしなくて大丈夫よ。
 でも、ふきの煮物とせりの胡麻和え作ってあるから、
 食べにくる?」

母の言葉は、とても不器用で、そして優しかった。
素直に「嬉しいわ」とはいえない、
昭和ひと桁の女性の謙虚さなのかも
しれないと思った。

一緒に食事をし始めて、
ポツリポツリと声を震わせて
母はつぶやき始めた。

「あと何回、あなたとこうやって
 二人で食事ができるのかなと思うのよ。
 あと10年、生きれるのかしらと思うと…」

80歳近くになる母の心の中にある
淋しさと不安と恐怖を、
私は深く深く感じながらも、

「何いっているのよ。考えすぎよ。
 地方にお嫁に行った娘がいて、
 ずっと会えない人もいるんだからね。
 そんな弱々しいこと言わないで。
 心配しないで。」

と、笑い飛ばした。
母も「そうね」と言っていた。

あとになって、やさしいふきの味、
父がとってきたという春の香りのするせりの味を
なつかしく思い出しながら、

あと何回、このふきやせりが食べられるのだろうか

と、一人、少し泣いた。

あのとき、母と一緒に泣いてあげればよかったのか、
抱きしめてあげればよかったのか…

いろいろと考えて、あのとき笑い飛ばした私も、
やはり不器用だなと、
母に似ている自分に気付いた。

今週の母の日の日曜日、父は退院する予定だ。
今度は三人で夕飯を食べよう。
そのときは、少しは老いた二人の心の内を
静かに聞いてあげようかな。

いや、やっぱり、
私は笑って元気に言おう。
「今は、人生100年よ!
 あと20年以上もあるからね!
 よろしくね!」
と。

何故なら、私はまだ、将来の悲しみへの
覚悟ができていない。
だからまだ、笑うことしかできない。
ずっとずっと、本当は笑っていたい。

これが、私の本当の気持ち。

このブログを読む日が、私の母はあるのかな。
読んでほしいような、知らないでほしいような、
そんな気持ちで託す、
私の心からのメッセージ。

投稿者 椎名 あつ子 : 14:33

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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