2007年03月09日

知人の息子さんに、
2年ぶりに会いに行った。

Kくんは、もう大人だけれど、
自閉症で、子どもの頃から
言葉を話すことはできない。
最近は、自分への攻撃が強くなり、
頭を壁に打ち付けてしまうため、
目も見えなくなってきてしまっている。

120キロ近くある大きな体の
Kくんの表情は、子どものまま。
作っていったブラウニーケーキを
丸ごと、大きな手でわしづかみにして、
いきなり口の中に入れようとして、
ふと笑った。
鼻の頭に粉砂糖を付けたまま、
声も出さず、笑った。
無邪気な笑顔が、愛しかった。

自分の感情を、
言葉で表現することを奪われ、
普通の生活も奪われ、
感情をコントロールするための
薬を飲まされ続け、
そして最近は、光さえも失った。

何も見えない世界で、
何も表現できない状態が、
彼の人生。

「生きることが辛いかのように
よく泣くのよ」

とお母さんが話してくれた。

人を恨むことをせず、
人のせいにすることもせず、
死ぬこともできず、
心臓が動き続けるまで、
彼はこのまま生きていく。

Kくん、あなたは
何を考えているの?
何を想っているの?

心の中を知ることができない切なさで、
私は思わず、彼の頬を、
両手で撫ぜた。
彼は、大きな瞳を閉じて、
ゆっくりとうなずいてくれた。

彼の見えない魂を感じた
一瞬だった。

投稿者 椎名 あつ子 : 21:16

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

月別アーカイブ

カレンダー

2007年3月
« 2月   4月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

オススメ