2007年03月アーカイブ

2007年03月16日

Stranger in the night

その人は、曲を流しながら
話し始めた。

「遠い昔、イタリアで生きようと決めて、
ローマ空港に着いたとき、
フランク・シナトラの
Stranger in the night が
安っぽいラジオから
流れていたんだ。
あの時、もう、
日本人でもイタリア人でもなく、
ただのStranger(異邦人)になったと思い、
涙がにじんだことがある。
この曲が、今の僕のはじまり。」

私は、その人の話を聞きながら、
自分の遠い昔を思い出していた。
今の私のはじまりの曲は
何だろうと思いながら。

私は、その人のような
鋭い感性がないので、
自分のはじまりの曲は
思い出せない。

でもあえて言うなのなら、
初めて、あらゆる物を捨て、
覚悟して着いた国、
そこはアラブの小さな小さな街。
そこの小さな安っぽいホテルの
一室から見た、
朝5時の砂漠の景色。
街中から、お祈りのコーランが、
美しい曲のように
鳴り響いていた。

「地の果てまで来てしまったんだ。
もう、後戻りはできない。
覚悟して来たんだから。」

初めて、日本に帰りたいと思った。
そこは、異国というには
遠すぎるところで、
茫然と立ちすくんでいたあの時。

あれから随分と時間が経ち、
ものすごく遠回りをして、
今の私がいる。
人生は短いようで、
やはり長いものだと痛感する。

人にはそれぞれ、
第二の故郷があるんだな。

そんなことを考えさせられた、
フランク・シナトラの
やさしくもセンチメンタルな
Stranger in the night。

投稿者 椎名 あつ子 : 20:11 

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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