2007年10月26日

卒業式

1年ぶりくらいに、ある店に、
実家に寄った帰りに行ってみた。
そこは、私の20年来の男友達の
経営するバー。
彼は、奥さんと2人でひっそりと、
客が誰もいない中、
座っていた。

「おー!久しぶり!」
「ほんとね。」
「何、飲む?」
「うーん、車だから、
コーヒーってある?」

そんな、他愛もない会話をしたのも
久しぶりで、
ほんと、なつかしく感じた。

昔は、本当によく通っていて、
私の大切な居場所の
ひとつでもあった。

「最近、ここに来ているみんな、
元気?」

あの頃の私を含む常連客についても、
仲間意識で、
なつかしく、気になった。

「あいつはさ、狭心症でさ、
2ヶ月入院したよ。」

そのあいつは、
私よりひとつ年下の
スポーツ人間だ。
20年の月日の重さを、
ひしひしと感じた。
みんな、年をとった。
いつまでも若いもりでいるはずが、
やはり、知らぬ間に、
無理がきかない体になっていた。

そんな話をしている、
目の前の、私の7歳年上の男友達も、
髪の毛は真っ白になり、
バカ話をしながらも、
どこか物悲しげで、
若い、彼の2番目の奥さんだけが、
ニコニコしていた。

もう、この店に
私の居場所はどこにもないと、
しっかりと感じずには
いられなかった。

私がこの街から離れて、
10年近くの時間が、
大きな距離を、間違いなく作っていた。

少なくとも、10年前、
彼は私の唯一の相談相手だった。
夜遅くまで、酔っ払いの私と
付き合ってくれた。
2人でよく踊った。
そして、よく笑った。
最初の奥さんとは、親友だった。
いつの間にか、彼女の消息は、
彼と離婚してから
分からなくなっていた。
それでも、若い今の奥さんと彼は、
少なくとも幸せそうで、
少し安心した。

「また来るね。バーイ!」

一杯のコーヒーで帰ったことなど
なかった私は、
自分に何か違和感を感じながら、
心の中で、

「そう、これが卒業…」

とつぶやいた。

それでもまた、近いうちに、
車をおいて飲みに来ようと思った。
だって、やっぱり、
大切な男友達だもの。

投稿者 椎名 あつ子 : 20:46

プロフィール

横浜心理ケアセンター

『横浜心理ケアセンター』

2000年から横浜市中区で開設しているカウンセリングルームです。
多種医療・弁護士などとの協力体制のもと、心理カウンセリングを行っています。
このブログでは、センターの代表である私が、一人の人間として、一人の女性として、またカウンセラーとして、日々の生活の中で感じた様々な出来事などをエッセイ風にみなさんにお伝えしていきたいと思います。

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